第1章 真白の君
きょとり、真白の君はその美しい瞳を瞬かせた。
そのちょっとした動作さえも可愛らしくって、男はたまらなくなる。
真白の君は、それからその美しいかんばせを破顔させて言った。
「あっははは。主は突然だなあ。俺だって、主のことは好いてるぜ。」
真白の君は、見た目を裏切るような中身をしている。
口調だって砕けているし、儚い見かけをしているが、その実、いつだって驚きを求めては周囲に悪戯を仕掛けるという問題児なのだ。
そんな真白の君が口にした答えは、やはりというか、男の期待を裏切るものだった。
男は、真白の君の口にした「好き」が、男と同じ温度をもっていないことを分かっていた。
つきん、と、こころが痛む。
何とも鈍い痛みだ。
男は傷ついたことに、ああ期待していたのかと知る。
真白の君に悪気なんてなければ、傷つけようだなんて企みもないことは、この男が一番知っていることだった。
だからこそ、男は余計に傷つく。