第1章 真白の君
月が綺麗な夜だ。
酒呑みに誘ったのはどちらからだったか。
それすら思い出せない位には、酔っていた。
そして、男には酔っていた自覚があった。
だから、言うつもりのなかった気持ちを言ってしまったのも、後悔はあれども驚きはなかった。
ああ、言ってしまった。
そんな漠然とした思いしかなかった。
男と飲み交わしていた相手は、ひどく綺麗だった。
髪も肌もまつ毛も身に纏うものさえも、何もかもが白でできており、その透き通るように輝く白でできたまつ毛に縁取られている瞳だけが、金色に溶けている。
男には、この真白の君が何よりも綺麗なものに見えた。
天下五剣の中で最も美しいとされる三日月宗近を迎えたときでさえ、目の前の真白の君には及ばなかった。
それは単に、男が真白の君に恋をしているからに違いないのだが。
そして今、静まりかえった紺の濃い宵の中で、月明かりに照らされた桜と真白の君は、酒の肴には有り余るほど美しかった。
男を魅了するには、十分すぎるほど美しかった。
酒の酔いとその美しさに魅了された男は、つい、ぽろりと、己の本心を零してしまったのだった。