第2章 演練
程なくして、ドライヤーを片手に持った鶴丸国永が戻ってきた。
鶴丸国永はどこか機嫌良さ気だ。
この間一緒に聞いたフォーチュン◯ッキーを口ずさんでいる。
「鶴丸なんか機嫌いいな」
男がなんとなしに言えば、鶴丸国永はきょとりとした後嬉しそうに笑って言った。
「そりゃあ主を独り占めできるからだな。今日全然話せなくて寂しかったぞ。」
こ、こいつは…っ!
男はたまらず悶えた。
鶴丸国永は、無自覚にこういったことをさらりと言ってのける。
その度に男がどんどん深みにハマっていることなど露知らず。
しかし嬉しい反面、どうしたって傷つく自分もいる。
そもそもの話、今日男が鶴丸国永とあまり話さなかったのは、昨日のことがあったからだ。
それをお前はなかったことにするのか。
忘れたふりをするのか。
それとも、本当に何も覚えてない?
俺の言った好きが、そういう好きだって本当は気付いてたんだろ。
あの時は、酔ってて気づくわけないって思ってたけど。
鶴、お前は馬鹿じゃないもんな。
人の感情に敏感で、頭がよく回る。
だから、本当は分かってたんだろ。
分かってて、ああ言ったんだろ。
それは男が今日一日考えて導き出した答えであった。
鶴丸国永は賢く、頭の回転が早い。
だから、本当は気付いていたんだと。
分かってて、男を振ったんだと。
そして、その考えは大凡間違ってはいないのだろう。
それでも忘れたっていうんなら、俺はどうすればいい。
振られたっていうのに、まだ好きになっていくんだ。