第11章 閑話休題:鶴丸国永
「きみが好きだ」
男の至近距離で鶴丸国永が囁く。
「好きなんだ」
あとからあとから、溢れてきてとまらない。
胸が張り裂けそうな痛みがどこまでも切なくて、けれどいとしい。
君も、こんな気持ちだったのだろうか。
主を見つめていれば、その頬にぼろと雫が滑った。
それが鶴丸国永には宝石のように美しく思えて、涙だと理解するのに一瞬を要する。
次から次へと溢れる涙を、男は拭うこともせず小さく嗚咽をもらす。
主が泣いているのを見るのは、これで三度目だ。
一度目は薬研藤四郎が折れたその日、手入れ部屋で。
二度目は大広間で、今まで溜め込んでいたものが溢れて。
どちらも、鶴丸国永ははっきりと覚えている。
男は今まで決して泣くことをしなかったから、初めて泣いた主を見た日、鶴丸国永は心底安心したものだ。
そして、三度目が今。
今までとのどれとも違う涙に、鶴丸国永は緩む頬を隠すこともしない。
「ほんと、に…?」
男は涙に溺れそうになりながらも、なんとか声を発する。
まるで幼子のようなそれに、鶴丸国永は耳を傾けながら男の涙を人差し指で拭った。