第11章 閑話休題:鶴丸国永
鶴丸国永は、男が言葉を紡ぐ度に胸の内に募る想いに、息が詰まりそうな切なさを覚えて瞳を閉じる。
どうして、好きになればなるほど苦しくなるのだろう。
幸せなもののはずなのに、こんなにも心臓が軋むのはなぜだろう。
たったふた文字で表すこの感情は、どうにも厄介で、けれど大事に持っておきたいと、手放したくはないのだと、こころが叫ぶ。
せかいでひとり、誰でもないきみにこんなにも惹かれている。
はあ、と吐いた息は震えていた。
そんな風に感傷に浸っていれば、聞こえてきたにっかり青江の言葉に鶴丸国永は嘘だろ、と慌てることになる。
「個体差とか、刀にもよるんだろうけど、僕らはきみほど人のもつ心とか感情とかいったものに慣れてないんだ。だから、許してあげて」
「は、許すってなにを…」
「僕は石切丸の部屋にいるから、ふたりでゆっくり話すといいよ。」
「え、ちょ、はなすって、」
いやちょっとまってくれ!
鶴丸国永は心の中で叫んだ。
確かに抱きしめたいと思った、甘えさせてやりたいと思った。
思ったが、こう急にこられるとさすがに困るというか、主だって困っているだろう。
少々君は強引というか、こういう場を設けてくれたのはありがたいんだがいかんせん心の準備というものがだな…!
……ああ、もう知らん。なるようになるだろう。
鶴丸国永は半ば投げやりに意を決すると、押入れの襖を引いた。
その音で振り返った男の目が見開かれるのを見て、思わず気まずさから目を逸らす。
「……よお、…驚いたか?」
とりあえず、と鶴丸国永はお決まりの台詞を口にした。