第2章 演練
パンツだ。
パンティだ。
ピンクと白の、レースとリボンであしらってある、可愛らしいパンティだ。
しん、と静まり返った空間の中で、薬研藤四郎のお茶をすする音だけが響く。
いつまで飲んでんだ。
恐らく数秒。
沈黙を破ったのは、投げた本人と思われる鶴丸国永であった。
ぶひょ、と何とも雅じゃない音。
次いで聞こえたのは、笑い声だった。
「あっはっはっはっ!きみ…っ!そ、それはっ!!」
ひーっひーっと過呼吸になりそうな程笑う鶴丸国永に触発され、次々と皆が吹き出す。
山姥切国広でさえ肩を震わしていた。
ぶひゃひゃひゃと大口を開けて笑うのは薬研藤四郎だ。
にっかり青江は机をばしばし叩いている。
いや、あの、すいません、とか言いながらも笑ってるのばればれだからな、と思わずにはいられない程顔がにやけ声が震えているのは一期一振である。
しかし男は笑えなかった。
一ミリたりとだって笑えなかった。
だって、パンティが顔面にあたったのは他の誰でもない。
石切丸なのだ。
男は知っている。
普段温厚な彼が、案外すぐキレることを。
男は知っている。
キレた彼の、その恐ろしさたるを。
ごおおおと何処ぞの漫画のように彼の後ろに吹き荒れるブリザードが見える。
ついでに般若も見える。こわい。
体感温度が三度は下がったと思わせる石切丸の様子に、ひっと喉を引きつらせたのは誰であったか。
石切丸はカッと目を見開き、ついでに瞳孔も見開き、ドスのきいた声で叫ぶのだった。
「この、罰当たりめ!」