第11章 閑話休題:鶴丸国永
「主さんは本当に辛いとき、僕らにはなにも言ってくれないから」
堀川国広の言葉に、鶴丸国永は視線を彼の横顔へと遣る。
眉を下げ、睫毛を伏せるその姿からは寂しさが滲み出ていた。
「今までならこういうとき、主さんの逃げ場は薬研くんで、でも、薬研くんはもういなくて」
「堀川…」
「ねえ、鶴丸さん。僕、悔しいんです。主さんは薬研くんのことをなにも知らないって言ったけど、僕だって、主さんのことをなにも知らない。」
震える声で堀川国広が発した言葉は、鶴丸国永の胸を刺すものだった。
俯き悔しそうに拳を握る姿に、鶴丸国永は何も言葉をかけることなどできない。
だって、それは自分も同じなのだから。
鶴丸国永は重たい沈黙の中で、燭台切光忠から頼まれていた伝言を伝えるべく静かな声で話しかける。
「…きみ、夕餉がまだだろ」
「あ、うん」
「俺は済ませてきたから、君も食べてくるといい。暫くは俺が主を診ておく。」
「…じゃあ、お言葉に甘えて。主さんを、お願いしますね。」