第11章 閑話休題:鶴丸国永
「…鶴よ、主は好きか?」
「………三日月はいつも唐突だなぁ。そりゃあ好きさ。いい主だと思うぜ。」
「それは、今でも変わらぬと?」
「…………」
鶴丸国永は、三日月宗近の問いに僅かな沈黙を挟む。
それは今でもか、と問われれば、答えるのは難しかった。
薬研藤四郎が折れてから、もう幾日かが経っていた。
本丸内は静寂に包まれ、妙な緊張感が漂っている。
それもこれも、ただ薬研藤四郎が折れてしまったことばかりが原因ではない。
今この空気を作り出しているのは、十中八九主である男のせいだろう。
答えない鶴丸国永に、三日月宗近は俺はな、と言葉を続ける。
「俺はな、鶴」
一度伏せられたその瞳が鶴丸国永を捉えた時、鶴丸国永の背には汗が流れた。
これは恐怖だ。
打ちのけの三日月がすうと浮かんで、三日月宗近は袖で口元を隠す。
「主のことが心配なのだ。」
ふふ、と笑う三日月宗近に、鶴丸国永は焦りを覚えて手に汗を握った。
「…心配してるようには見えないぜ、三日月。」
「信じてはくれんのか」
「信じるも何も、君が心配してるのは主自身じゃないだろう。主の俺たちに対する態度だ。」
「分かっているではないか。」
「はっ、一緒にしてくれるなよ」
「なぜ。鶴丸も知っているだろう、今の刀たちの様子を。加州など今にも折れそうじゃないか。小夜や蛍丸も主を疑い始めている。」