第11章 閑話休題:鶴丸国永
男の口元に、鶴丸国永の視線がいく。
少し開いている口からは、ちろりと艶かしい赤が見え隠れしていて、妙に色っぽい。
ごくり、と、ほとんど無意識に唾をのむ。
さきほど己の口に触れたのは、まちがいなくこの口であった。
感触が、まだ残っている。
少しカサついて、それでいて柔らかかった。
なぜだか、そこから目が離せなかった。
だめだ、と頭では分かっているのに、それを跳ねのけるほどの強い欲望。
鶴丸国永は男に吸い込まれるように顔を近づける。
距離はもう、あと僅かしかない。
ああ、ふれてしまう。
と、その時だった。
「旦那?」
どきっ、と心臓がはねる。
鶴丸国永は意味もなく慌てて、勢いよく振り返った。
「お、どろいた…、薬研か……」
そこにいたのは、着流しを纏った薬研藤四郎だった。
鶴丸国永は危ないところだった、と胸を撫で下ろす。