第11章 閑話休題:鶴丸国永
頭の中に浮かんだ一つの可能性のようなものを打ち消して、鶴丸国永はゆっくりと身体を起こす。
このままここにいては、冷えてしまって良くない。
刀である自分はいざ知らず、男は人間であるから風邪をひいてしまうかもしれない。
鶴丸国永はできるだけ静かに体制を整えると、主を起こさないようにと注意しながら横抱きにした。
そのまま男の部屋へと運べば、そこには布団が敷かれたままになっている。
おそらく、またすぐに寝るつもりだったのだろう。
行儀が悪いとは承知の上で、鶴丸国永は器用に足で掛け布団をめくる。
もうすっかり夢の中にいるのか、男はちょっとやそっとの振動では気づく気配もない。
部屋は蝋燭の灯り一つすらなかったが、月光と蛍の光で、太刀である鶴丸国永でも何がどこにあるか把握できる程度には明るかった。
だから、腕に抱えている男の顔などははっきり見えるわけであって、つまり、ああそうだ、あの時の自分はどこか可笑しかったのだ。
鶴丸国永だって酒を飲んでいたわけだし、月も良くなかった。
初めて主に気持ちを吐露された日と、雰囲気がひどくにていたから。