第11章 閑話休題:鶴丸国永
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抱いてくれ、と男が口にしたとき、鶴丸国永の胸にあったのは驚愕と、それから心臓を直接掴まれたような大きな衝撃だった。
己の上に倒れこむ主からは、穏やかな寝息すら聞こえてくる。
鶴丸国永は、けれど指ひとつ動かすことすらできなかった。
忘れていたわけではない。
時折感じる視線はじりじりと身を焦がすような熱を持っていたし、鶴丸国永の言葉に、仕草に、一喜一憂する姿は、誰がどう見ても男が鶴丸国永に惚れていると分かるほどだった。
忘れてはいなかったのだ。
けれど、もう男はてっきり諦めていたものだと思っていたから。
ここまで深く、自分を想っているなんて思ってなかったから。
甘く見ていた。
所詮、月日が経てば薄れ忘れ去られる程度の想いなのだろうと。
鶴丸国永の胸を後悔と罪悪感が埋める。
あの時、自分はもっと主と向き合うべきだったのではないか。
どこかで、彼の気持ちを軽んじてはいなかったか。
抱かれたい、と、男は確かにそう言った。
それが抱きしめるという意味を示すばかりではないことくらい、鶴丸国永は分かっている。
分かっているからこその、この動揺なのだ。