第11章 閑話休題:鶴丸国永
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「本当に大変なのは、お前たちだ。俺は戦えないし、傷も負わない。」
夏になったばかりの日だった。
三日月宗近の要望により、本丸ではかき氷が配られていた。
初めは縁側で三日月宗近とふたりで食べていた鶴丸国永だったが、途中で男が通りかかったので三人で少し話しをし、途中で三日月宗近が去っていって今はふたりであった。
鶴丸国永が疲弊している男を労わり、先日出現した第三勢力について話をしていれば、不意に男はそう口にした。
鶴丸国永は、男のそういうところを気に入っている。
しかし同時に、刀剣男士を優先するあまり自分を顧みないところが心配でもあった。
目の下にある濃い隈と、僅かに充血している目が男の疲労を物語っている。
「それでも、主は人間だ。無茶をすれば体を壊す。今だって隈もできているし、顔色もあまりよくない。」
「ただの寝不足だよ。俺は二徹した位で倒れるほど柔じゃない。」
そらならいいんだ、と鶴丸国永は言ってから話題を変えた。
しかし話題を変えて数分後。
鶴丸国永の肩にとすん、と重みが乗る。
やはり限界だったのだろう。
すぐに聞こえてくる寝息に、鶴丸国永は小さく微笑んだ。
「主は、無理をしすぎだ」
そっと髪を梳く。
柔らかな猫っ毛が、触れていて気持ちいい。
前髪をのければ額が露わになって、より幼さが増す。
自分が生きてきた僅か一割も生きていない男を守ってやらなければ、と、不意に思った。
生温い風が鶴丸国永の輪郭をなぞって、心の隙間に入り込む。
すうすうと何故か心もとない気持ちになって、鶴丸国永は男の髪に何度も手を通す。
鶴丸国永は、主に対する気持ちの境界線がだんだんと曖昧になってきていた。