第11章 閑話休題:鶴丸国永
どうしてだか、鶴丸国永は人の執着心や欲望に塗られた瞳というのが苦手であった。
そういうものに触れるたびに、ぞわぞわと背中を気持ち悪いものが走り、悪寒が止まらなくなる。
だからもし、いまの主である男がこれから先鶴丸国永に執着したり、あるいはそういう目的で触れようとするならば、男との距離の取り方を考えなければならない。
可哀想に。もっと違うものを好きになればよかったものを。
叶わないと分かっている望みほど、報われないと分かっている想いほど、切なく辛いものはないだろう。
鶴丸国永は男が部屋へ戻るその背中を見送りながら、ぼんやりとそんなことを思った。
しかし鶴丸国永の考えは杞憂に終わる。
翌日、なんでもない風に鶴丸国永が装えば、それに合わせてか、鶴丸国永の意を汲み取ってか、男は以前と何も変わらず接した。
一瞬、もしかして覚えていないのではないかと思ったが、それはないだろう。
行動の端々から垣間見えるぎこちなさが、どこかにあったのだから。
鶴丸国永は、そのことに無意識に安堵した。