第11章 閑話休題:鶴丸国永
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「好きだ」
唐突に、男は言い出した。
月が綺麗な夜だった。
人工的な光は何もない夜であったにもかかわらず、月光のせいか、主である男の顔がはっきりと見えるくらいには明るかった。
鶴丸国永が、人の身を得て二年ほどたった頃のことだった。
男は、かなり酔っていた。
あまり強くもないのに飲むペースが速い男は、いつも直ぐに酔ってしまう。
それでも、今しがた男が口にした言葉が冗談や酒の席での軽口ではないということはちゃんと分かっていたし、男の言う好きがそういった類のものだということも分かっていた。
鶴丸国永は驚いた、と目を瞬かせた後、笑って言った。
「あっははは。主は突然だなあ。俺だって、主のことは好いてるぜ。」
まるで気づいてません、とでもいうように装って、鶴丸国永はいつもと変わらない体を繕う。
主のことは好きであるが、そういった目で見ることはできなかった。
鶴丸国永は賢い刀であるので、自分の主に対する敬愛とか忠誠心とかを、恋や愛とかといったものに間違えることはしない。
少しばかり酷だろうかと思ったが、男が鶴丸国永の気持ちを察したのなら、それはそれでいいと思った。