第10章 雪解け
「あっ、」
とん、と背中に壁が当たって、いつかと同じ状況になる。
僅かに溢れたお茶に声を零せば、一瞬だけ鶴丸国永の意識がそちらに移った。
机の上にできた小さな水たまりに、男の意識は向いたままだ。
鶴丸国永はそれをいいことに、男の頬へと手を伸ばす。
鶴丸国永の冷たい指先が男の温かい頬にふれて、男は肩をびくりと揺らすと鶴丸国永へと意識を向けた。
一度見開かれた瞳が、ゆらゆらと揺れる。
光の反射のせいなのか、鶴丸国永にはそれが泣く一歩手前のように思えた。
鶴丸国永が触れている部分に熱が集まるのを感じて、同時に男が触れている手に体温が移る。
「好きだ」
唐突に紡がれたそれは、鶴丸国永が発したものだった。
男は彼が何を言っているのか理解できなくて、目を見開いたまま固まる。
すきだ、とは何だったか。
まるで信じられないものを見るような男に、鶴丸国永はもう一度口にする。
「きみが好きだ」
至近距離で鶴丸国永が囁く。
「好きなんだ」
それはどこまでも切なくて、何よりもいとおしかった。