第10章 雪解け
「そんなに怯えないでくれ。」
優しい声だった。
けれどそこに僅かに含まれる怯えに気づいて、男は心の中で鶴丸こそ怯えないで欲しいと身勝手にも思う。
好きな子には、いつだって笑っていてほしいのだ。
もちろん、真剣な顔もかっこよくて大好きだが、いちばんはやはり彼の幸せそうな顔である。
「…いや、俺のせいか」
参ったな、と小さく呟いて、鶴丸国永は頬を掻いた。
「……すまん」
彼は、少しの沈黙を置いて謝罪を口にする。
薄い唇から紡ぎ出されるその声は、どこまでも真摯だ。
驚きを好む鶴丸国永という刀が、根は真面目なことを男は知っている。
「きみを、たくさん傷つけた」
「…………」
「あんなこと言うつもりなんてなかったんだ。人の心というものは、厄介なものだな。」
そこまで言って、鶴丸国永は男のすぐ隣に移動した。
男は思わず後ずさって、その動きで腕が机に当たる。
がたん、と案外大きな音とともに、机の上に置かれていた湯呑みが揺れて机を濡らした。