第10章 雪解け
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六畳一間のにっかり青江の部屋には、沈黙が降っていた。
机に置いてある湯呑みからは湯気が消え、急須に残っているお茶は茶葉からうま味とともに苦味も存分に吸い、さぞかし苦くなっていることだろう。
男は慣れない正座ですら苦に感じない程の気まずさを伴いながら、胃が痛くなるのを感じる。
目の前に座る鶴丸国永も、この状況を打破するのは無理なようで先程から黙ったままだ。
この部屋の主であるにっかり青江は、数分前だか数十分前だかに石切丸のところへ行くと言って出て行ってしまったきりで、ふたりが話し終えるまで戻ってくる気配もない。
全くいらない気遣いだ、と男は思う。
話を聞かれたのももちろん気まずいのだが、それ以前の色々が重なってもうなんと言うかキリキリとただただ胃が痛い。
男は落ち着かない心持ちで、手を遊ばせる。
どうにも会話の糸口が見つからなくて、ため息が溢れそうになっては飲み込むという作業をもう何回繰り返したことだろうか。