第10章 雪解け
にっかり青江は男の話を頭の中で整理しながら、口元に弧を描いた。
「じゃあ、主は鶴丸のことが嫌いで避けているわけじゃないんだね?」
「……当たり前だろ」
「ふうん、そう。…今言ったことを彼に言おうとは思わなかったの?」
「二回も振られてるのに?流石にこれ以上振られるのは堪える。」
「まあそれもそうか。…僕は彼も彼だと思うけど、でもほら、僕らはまだ人の身を得てそれほど経っていないんだから」
男はにっかり青江の言葉に首を傾げる。
それを見たにっかり青江は、小さく笑って説明を付け足した。
「個体差とか、刀にもよるんだろうけど、僕らはきみほど人のもつ心とか感情とかいったものに慣れてないんだ。だから、許してあげて」
「は、許すってなにを…」
「僕は石切丸の部屋にいるから、ふたりでゆっくり話すといいよ。」
「え、ちょ、はなすって、」
男の脳に一つの可能性が過って、男はあからさまに動揺する。
にっかり青江はそんな男を気にもとめず、立ち上がると襖の方へ移動した。
にっこりとそれはそれはいい笑みを浮かべているが、男はそれどころではない。
男の背後にある押入れがスッと開く音がして、それからごそごそと布掠れの音。
嫌な予感に背中に汗が伝うのを感じながら振り返れば、そこには気まずそうに視線を泳がせる鶴丸国永がいた。
「……よお、…驚いたか?」