第10章 雪解け
「むかつくし、もう何で好きなのか分かんねーときもあるのに、それでも性懲りもなく好きなんだ。まだ、好きになっていくんだ。」
叶うわけないって分かってるのに、ずっと好きでいるなんて、辛いじゃないか。
男は小さくつぶやいた。
例え好きになってくれなくとも傍にいれるのならそれだけでいいとか、好きな人の幸せを願うとか、それで納得できるほど男は出来ていなかった。
見返りなんていらない、と思ったことがないわけではない。
ないわけではないけれど、何も求めずにいるなんて無理だった。
好きになってほしい。
自分を見てほしい。
彼に触れたいし、触れられたい。
キスをしたいし、それ以上のことだってしたい。
何より、愛されたい。
受け止められることのないそれらの想いは行き場を失い、それでも消えることなく確かに燻っている。
心臓が軋んでは、彼を好きになることをやめようと思うのに、どれだけ辛くとも切なくとも愛しいと心が叫ぶのだからどうしようもない。
男は乾いた口内を潤すために、温くなったお茶を口に含む。
ほう、と一息ついて、あと、と付け足すように口を開いた。
「あと、単純に気まずい。何話したらいいか分かんねえ。」
今度は残りのお茶を一気に飲み干した。
底の方に沈んでいた茶葉が、口の中に苦味を残す。