第10章 雪解け
くるくると、男は机の上で指を遊ばせる。
自分の口から誰かにあの日の夜のことを告げるのは、にっかり青江が初めてであった。
「俺が一回振られた時点で、ちゃんと諦められたらよかったんだと思う。…だけど、そうはいかねぇよなぁ。俺は今だって未練たらしく鶴のこと好きだし、だから余計辛いっつーか」
自分でも、こんなに女々しい部分があるだなんて知らなかった。
男は思う。
今までだって好きな人ができては、その度に本気で好きだと思ってきた。
けれどちがう。
男が今鶴丸国永に抱いている感情は、そんな生温いものなんかじゃない。
マグマのように熱くてどろどろしてて、そのくせ時折ひどく綺麗に見える。
どれだけ詰られても、罵られても、軽蔑されたとしても、男は決して鶴丸国永を嫌いにはなれないのだろう。
「…二回目に振られたときにさ、鶴に言われたんだ。本当は好きじゃないんじゃないかって。」
男はあの日のことを思い出して、唇を噛みしめる。
目の前ではにっかり青江が静かに話しを聞いていた。
「そりゃあねえよって、何でお前がそんなこと言うんだよって。俺は好きでもない男にキスなんてしねぇのに。」
例えそれが記憶が飛ぶほど酔っていたとしても、男は誰某構わずキスするなんてことはないし、鶴丸国永の言ったことが本当であるならば、抱いてほしいなどと好きでもないものに言うはずがなかった。