第10章 雪解け
男がにっかり青江に連れられて来たのは、彼の自室であった。
にっかり青江は一人部屋なため、本丸内では比較的小さい六畳一間の部屋が与えられている。
男の部屋と同じ広さにも関わらずこちらの方が広く見えるのは、綺麗に片付いていることと物の多さの違いによってだろう。
「青江の部屋は片付いてるなー」
「そうかな」
にっかり青江の言葉に頷いて、男は部屋をぐるりと見回す。
それから以前訪れたときと変わっていないその部屋の、机のすぐそばに腰を下ろした。
机にはポットと急須、茶葉が置かれている。
にっかり青江は机を挟んで男の正面に座ると、慣れた手つきでお茶を淹れた。
「はい」
「ありがとう」
男はそれを受け取ると、早速一口飲む。
淹れたてのお茶は少し熱いくらいだが、走ってかいた汗が冷えた身体にはちょうどいい。
「で、主はどうして逃げてたんだい?」
にっかり青江は、余談も何もなく本題に入る。
男がわずかに噎せるの眺めながら、自分もお茶を飲んだ。