第10章 雪解け
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あの日から、どうにも鶴丸国永は男を捕まえようと躍起になっているようだった。
心臓が早鐘を打つ。
荒れた息を飲み込んで、できるだけ静かに呼吸をする。
男はその身を建物の陰に隠し、そっと自分が走ってきた方を見た。
どうやらうまく巻けたらしい。
鶴丸国永が縁側あたりでキョロキョロと辺りを見回しているのを見て、男は安堵のため息を吐いた。
最近はずっと、こうやって不毛な鬼ごっこを続けている。
男は辺りを見回し、見える範囲に鶴丸国永がいないことを確認すると、自室へ戻るため方向転換しようとして、ぽん、と肩に手を置かれた。
「ぎゃあ!」
やばい!見つかった?!
男が焦り再び走り出そうとするのを、鶴丸国永のものより更に冷たい手が阻止する。
触れる手のあまりの冷たさに誰だろうと振り向けば、そこには笑みを浮かべたにっかり青江がいた。
「驚いたかい?」
「お、驚いたかい、じゃねぇよ…。寿命縮まったわ。」
「ごめんごめん」
鶴丸国永ではないと知るや否や、明らかに下がった肩ににっかり青江は苦笑いする。
それが安堵のものなのか残念がってのものなのか定かではないが、にっかり青江は少なくとも後者だと思っている。
男は全力で否定するだろうが、彼はいつだって心のどこかで鶴丸国永を求めているからこうして追いかけられている状況を本気で嫌悪しているわけではないのだろう。
もし男が本気で嫌がっていれば、にっかり青江だって主である男の味方につくし、何より山姥切国広が黙っていない筈なのだ。
まったく難儀なものだなぁ、と首を傾げる男を見ながら、にっかり青江は男の手を引いた。