第10章 雪解け
男はまた何か言われるのだろうかときゅっと唇を噛み締めて鶴丸国永を見つめ、そして驚く。
その陶器のように白いかんばせが、ぶわりと赤みを帯びたからだ。
「え……」
男の思考は停止した。
一瞬怒りからくるものだろうかと思ったが、彼はそんな風にして怒ったりなどしない。
それならば、なぜ。
男はぽかんと間抜けな顔をしたまま、鶴丸国永の口から答えが与えられるのを待つ。
しばらくの沈黙の後、鶴丸国永は左手で顔を覆い、うそだろ、と小さく呟いた。
男には聞こえなかったようで、首をかしげるばかりだ。
「つる…?」
不思議そうに、しかしどこか不安そうに鶴丸国永の名を呼ぶ男に、鶴丸国永はまだわずかに頬に朱を残しながらずんと距離を詰める。
男は驚いて、未だに着流しを手に持ったまま思わず後退りする。
どうやらそれにイラッと来たらしい鶴丸国永が、男を壁に追いやるのはあっと言う間であった。
そして冒頭に至るわけである。