第10章 雪解け
「つるまる?!」
そう、そこにいたのは誰でもない鶴丸国永だったのである。
男は咄嗟に着流しを背中に隠して、ぎこちない動きで身体を鶴丸国永のほうに向けた。
もしかして見られていたのだろうか。
まさかの危惧していたことが起こり、男はとりあえず笑ってみた。
「…………」
しかしながら無反応である。
男の顔からも笑みが消えた。
この時の心情を一言で表すならば、終わった、である。
恐らく目が据わっていた。
流れる気まずい沈黙に痺れを切らしたのは、男の方だった。
「…なにか用か?」
ずいぶん、素っ気ない声だったと思う。
そんなつもりは無かったのに、この場から逃げたい一心で出たものは我ながらひどい。
「…い、や」
つまり詰まりに、鶴丸国永が言う。
彼がこうして吃ることは何とも珍しいことだった。
やはり見られていたのだろうか。それなら引かれた。
かわいい女の子ならいざ知らず、男はまごうことなき男だった。
挙げ句の果てに、二度も振られている。
そんな相手に自分の着ていたものを嗅がれるなど、どう足掻いても好意には繋がらない。