第10章 雪解け
なら彼を避けるのをやめればいい、なんて思うだろうがそれは駄目だ。できない。
男自身もこのところ色んなことがあって忘れていたのだが、鶴丸国永には一度詰られその想いを疑われている。
あれには男だって腹が立ったし、何より悲しかった。
それは一ヶ月ほど過ぎた今でも変わらず男の胸を抉り、傷つける。
彼自身が嫌いなわけではないし、好きな気持ちはこれっぽっちも変わらないが、彼の瞳と口から紡ぎ出される言葉は怖い。
男はそんなことを思って、また胸を襲う痛みを着流しをきつく握りしめることでやり過ごす。
まあそういったことが避けないという選択肢を消しているのだが。
はあ、と吐いたため息は存外大きくその部屋に響いた。
男は瞳を閉じて考える。
選択肢は二つ。
着流しに顔を埋め思う存分彼の匂いを堪能するか、我慢して洗濯機に入れさよならするか。
気持ち的には全力で鶴丸国永の匂いを嗅ぎたいのだが、これには少々リスクを伴う。
誰かに見られるかもしれないというリスクだ。
しかも今日は本丸に鶴丸国永が残っている。
もし匂いを嗅いでいる場面を見られたら、今度こそ男は死にたくなる。
だがこの着流しをそのまま洗濯機に入れるのは何だか勿体無い気がする。