第2章 演練
「大将、米研げたら水入れて炊飯器のスイッチ押しといてくれ。早炊きで頼む。」
「わかった」
丁度米を研ぎ終えると、薬研藤四郎から声がかかった。
その指示どおり水を入れ、炊飯器のスイッチを押す。
男が一息ついたところで、鼻腔をくすぐるいい匂い。
じゅーじゅーと焼ける音が食欲をそそる。
手持ち無沙汰になった男は、台拭きで机を拭くことにした。
本丸の机はとにかくでかい。
全員で食卓を囲めるようにと、男が揃えたものであった。
さらに言うと椅子ではなく座布団に座っているので、こういった洋風のスタイルの机と椅子は随分と久しぶりだった。
男が審神者になる前、普通に実家暮らしだった頃のことを思い出す。
男には兄弟がいなかった。
父と母と、それから父方の祖母と四人で暮らしていた。
その時住んでいた家はマンションで、室内の床は全てフローリング。
机は椅子とセットのものを。
寝るときもベッドだった。
懐かしいなあ、と男は物思いに耽る。
少しだけ、家族が恋しくなった。
母は元気だろうか。
父は無理していないだろうか。
祖母は病気になっていないだろうか。
審神者という職業は、家族にすら審神者とは何たるかを知られてはいけない。
何故なら歴史を遡れると知ったとき、必ず歴史修正主義者にならないとは言えないからだ。
それ故、審神者になったものは家族と会うことは愚か、連絡をとることすらできない。
仕方ないとは分かっているが、理解するのと納得するのとはべつだ。