第2章 演練
「大将、お米洗えたか?」
ひょこり、薬研藤四郎が台所の水流し場に顔を出す。
男はそれに慌てて米を研ぎ始めた。
「ごめんボーっとしてた。」
「大丈夫か?」
「ああ、そっちはどうだ?」
「あらかた準備は終わったぜ。後は米炊いて豚肉炒めて味噌汁をあっためるだけだ。」
「そうか。ありがとう。」
今日の夕餉を作っているのは薬研藤四郎である。
誰が作るともなしに、自然にそうなったのも致し方あるまい。
なんせ、この七人の中で料理ができるものといえば薬研藤四郎しかいなかったのだ。
男は手伝いとして米を研いでいるが、はっきりいってそれ以外は何もできない。
審神者になったばかりの頃は、米を研ぐことすらせずに炊いたり電子レンジでゆで卵を作ろうとし爆発させたり、とにかく主には台所を立たせるなという暗黙の了解が本丸で出来たほどである。
かくいう本人はそのことを知らないし勘付いてすらいない。
石切丸は手伝い程度ならこなしてみせるが、作るとなるとまた別だ。
何より一つ一つの食材に祈祷を始めることもあるので、一向に調理が進まない。
鶴丸国永はというと、料理にまで驚きを求めるのだからいけない。非常に危険である。
にっかり青江についても男と同じような失敗談がある。
更には電子レンジを一台潰し、歌仙に怒られてからは台所立ち入り禁止となった人物だ。
では一期一振はと言われれば、彼がまたとんでもなかった。
一期一振はしっかりしており、男の近侍をするにあたってもとにかくサポートがうまい。
そんなものだから、てっきり何でもできると思い込んだ男は一期一振を一度朝餉の係りにしたのだが、その時出てきたものといったら暗黒物質もいいところだった。
何も彼一人に作らせたわけではなく、その時は薬研藤四郎もいたのに何故そんなものが生まれたのかは未だに謎である。
ロイヤルな王子様は暗黒物質の生産者だった。
山姥切国広については、料理はできないわけではないが、あまりしたがらないので強制しないことにしている。
男はこうして考えて、改めて薬研藤四郎を連れてきてよかったと思ったのだった。