第9章 思い出を辿る
「こんなもんか…」
一通り服を買えば、次に向かったのはサービスカウンターだ。
ここでは本丸の番号とID、パスワードを伝え指紋認証を行えば、ショッピングモールで買ったものが本丸に転送されるという素晴らしいサービスが行われている。
ほとんどの審神者が利用するこのサービスを、男も例に漏れず利用していた。
記入すべきことを記入し指紋認証を終えた男は、へし切長谷部を見て言いにくそうに口を開く。
「なあ、長谷部。おまえ、なんか欲しいものとかないか?」
ふいと視線は逸らされたまま聞かれた言葉に、へし切長谷部は思わず自分よりも低い位置にある男の顔を凝視した。
欲しいもの。
それは主の信。
必要としてくれる心。
ずっとあなたのそばに。
欲を言うならば、あなたのこころに触れたい。
あなたにゆるされたい。
ああ、けれど。
欲しいもの、と言われて浮かんだ幾つもの欲求を頭を軽く振って拡散させる。
こんなものを望む資格など、自分にはない。
「欲しいものなど、すでにこの手に。今こうして主とともに居ることこそ俺にとっての幸福。これ以上は恐れ多くて望めません。」
にこりと笑みを模って、へし切長谷部はそう言う。
その言葉に男は何か言いたげにへし切長谷部を見たあと、諦めてそうかと呟いた。