第9章 思い出を辿る
店主の言葉に、麺をすすっていた音が止まる。
へし切長谷部はその身に纏っている雰囲気をがらりと変えた。
鋭い眼光は確かに店主を映しており、まるで威嚇するように構えている。
そんなへし切長谷部の頭に、男の手拳が降ってくる。
ごん、と容赦なく落とされた手拳に、へし切長谷部は警戒を解き男の方を見つめた。
「お前なぁ、そう威嚇しなさんな。おっちゃんすまん。」
「いやなに、構わん。俺が恐らく考えなしだったんだろうな。」
「いや、…あの子は今も、俺のお守りをしてくれてるよ。」
当たり障りのない言葉だった。
その言葉を落とした時に僅かに翳った瞳と、けれど思いのほか明るい声に、へし切長谷部は膝の上で拳を握る。
店主の言葉が主を傷つけると思うと、思わずあのような態度を取ってしまったが、今の言葉を言わせたのは他ならぬ己のせいではないのだろうか。
…そもそもを辿れば、全ては自分が元凶だったのではないだろうか。
本丸内ではあの一件についてはすでに終わっていることであり、皆が決意を固め前を向き始めている。
いい方向に向かっていることをわざわざ掘り返す真似はしたくないが、それでもへし切長谷部の胸の中にはしこりが残っていた。
へし切長谷部だけが、まだあの日に囚われている。