第9章 思い出を辿る
程なくして、目の前にはラーメンと餃子が置かれる。
男が箸で挟んですするのを横目に、へし切長谷部もとりあえず口に運んでみる。
麺をすするのは蕎麦で慣れているので造作もないが、口に含んだ瞬間広がる味にへし切長谷部は思わず手と口を止めた。
醤油を焦がしたような香ばしい香りに、ベースは魚介スープだろうか。
濃い味付けにも関わらず、あっさりとしているそれは一度口にすれば次へ次へと止まらなくなる。
「あーうまい!」
男は麺を食べ、更にスープも平らげると器をカウンターに置いて一声上げた。
時間にして五分ほど。
隣ではへし切長谷部が夢中になってラーメンをすすっている。
背景にポツポツと咲く桜を見て、男は残った餃子を口に放り込む。
どうやらへし切長谷部はラーメンをお気に召したらしい。
「兄ちゃん、久しぶりだね」
不意に、この店の店主が男に声を掛けてきた。
「覚えててくれたんすか?」
男はそれに人懐こい笑みを浮かべながら答える。
この店は政府が受け持つラーメン店であり、多くの審神者が訪れる。
男も、以前から何度か利用していた。
「覚えてるとも。お客さんの顔は忘れねぇさ。以前は腕に龍の刺青をした兄ちゃんとふたりできてただろう?」
「ああ。あいつは今日は留守番だ。そういえばまた食べたいって言ってたなー」
「そりゃありがてえ。それより前には、えらい綺麗な顔をした中坊と来てたなぁ。あの子は元気かい?」