第9章 思い出を辿る
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政府の所持している歴史改変対策本部の建物を出ると、そこはへし切長谷部にとって未知の世界であった。
何十メートルとあるビルがそこかしこに並び、アスファルトの上を走る現代の自動車は途切れることなく走っている。
周りを行く人間の数はそれはもう多くてへし切長谷部は軽くショックを受けた。
「あっちーな。現代は夏か。半袖もってきてて正解だわ。」
へし切長谷部の隣に立つ男は、着物から着替えたTシャツにジーンズとラフな格好で手で己を扇いだ。
「主、ここは…」
へし切長谷部が唖然と言った様子で聞けば、男は何てことないように答える。
実際、男はこのような環境で生まれ育ったので、何とも思ってないのだが。
「ここか?ここは東京だな。俺が住んでた県はここから結構離れてるんだが、まあ行かせてもらえねえし。」
「とうきょう…」
「あー、えっと、江戸って言えば分かるか?」
「江戸…俺が知ってる江戸とは、全然違いますね…」
「そりゃあ何百年も経てばなあ。」
男はそう言いながら、慣れたように地図も見ずにややこしい道を行く。
へし切長谷部はそれについて行きながら、若干の居心地の悪さに思わず眉間にしわを寄せた。