第8章 崩壊
山姥切国広を起こすか起こすまいか。
悩んでいれば、静かに男の部屋の障子が開いた。
開けたのは大倶利伽羅だ。
男が起きていることに驚いたのか、僅かに目が見開かれる。
入るか入るまいか迷っている風の大倶利伽羅に笑いかけてやれば、大倶利伽羅は後ろ手で障子を閉めながら男の元へやってきた。
すぐそばで腰を下ろすと、山姥切国広を一瞬見遣ってから、男の方を向く。
「もう、平気なのか?」
大倶利伽羅らしくない、弱った声だった。
相当心配してくれてたのだろう。
そこから垣間見る優しさに触れて、男の気持ちは凪いだ海のように静かで心地よいものになる。
「だいぶ楽になった。今は腹が減って死にそうだ。」
そう言って男が笑えば、大倶利伽羅はほっと一息ついた。
男はそんな大倶利伽羅の様子を見て、胸がいっぱいになるのを感じる。
本当は、一振り一振りに言いたいことが沢山ある。
ごめんな。
お前たちに辛い思いばかりさせた。
こんな頼りない主だ、不満だってあるだろう。
でも、優しい俺の刀剣たちは、こんな主を黙って受け入れて、まだ慕ってくれる。
だから、俺が言いたいことは一つだけ。
「倶利伽羅、ありがとうな」
男がその一言に色んな思いを込めて言えば、不意をつかれた大倶利伽羅は顔を赤くした。