第8章 崩壊
それは男のまごう事なき本心で、ずっと抱え込んでいたものだった。
次なんて来てほしくないけど、もし来てしまったのなら、男は今度こそ立ち直れない。
こころが、完全に折れてしまう。
なら、予防線を張ればいいと。
幸せだから、一層辛いのだ。
なら、その幸せをなくしてしまえばいい。
独りよがりで、なんとも自分勝手な考えだ。
それでも、男はそうする以外の方法が分からなかった。
静かな大広間に、鼻をすする音が聞こえる。
それも一つではない。
加州清光は、堪らなくなって男に抱きついた。
「大丈夫だよ、あるじ。俺たちは、ぜーったいに折れないからね。」
ぎゅーぎゅーと力いっぱい抱きしめて、加州清光は涙声のまま言う。
それを皮切りに、短刀たちが男に飛びついた。
五虎退なんかは大泣きである。
男はそんな自分の刀たちを見て、さらに涙腺が緩くなるのを感じる。
三十路手前のいい歳した大人が声をあげて泣くなんてみっともないとは分かっているが、止める術なんて持っていない。
男は泣きながら、ごめんなあを何度も繰り返す。
男の言葉に何度も首を振る短刀と加州清光を見て、周りの刀はやっと一安心した。
山姥切国広と歌仙兼定が泣きそうになったというのは、ここだけの秘密だ。
鶴丸国永は、その光景を愛おしそうに見つめるのだった。