第8章 崩壊
男は首肯かない。
視線を彷徨わせた後、震える声で呟いた。
「こわいんだ」
聞いている刀剣たちが、耳をすます。
男は、何に怯えているのだろう。
何を抱えているのだろう。
自分たちと、どうして一線を引くのだろう。
刀剣たちは、そこまで考えて気づく。
男だって悪いが、自分たちにも非があったんじゃないかと。
「こわい?なんで?」
鶴丸国永が、優しい声で聞く。
男と目線を合わせるようにしゃがめば、男はようやっと顔を上げた。
その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
それを見守る刀剣たちの心に、ズキリと鈍い痛みが走る。
ここにいる多くの刀が、男の涙を見るのが初めてだった。
「だって、そんなわけないって、思ってたんだ。闇堕ちとか言われるものがあるって、知ってた。知ってたけど、薬研とは、薬研だけじゃなくてお前たちとも、うまくやってたつもりだったし、そんなこと起きるわけないって。」
高を括っていた。
自分たちは大丈夫だと。
けれど、その結果がこれだ。
もう起こらないと信じたい。
信じたいけれど、どうしたって考えてしまうのは最悪の結末。
「もし、他の一振りでも折れてしまったら、…堕ちてしまったら、おれはもう、いきていけない」