第2章 演練
「さて、相手側に挨拶に行くか。」
演練では、終わった後互いに挨拶をするのが礼儀とされている。
己の刀剣を自慢するもの、相手の刀剣を褒めるもの、情報交換をするもの。
やることは様々だが、この時間は審神者たちにとって重要な時間だった。
男が相手であった女子高生の元へ向かうと、それに気付いた女子高生はぺこりと頭を下げた。
「今日はありがとうございました。」
「こちらこそありがとう。小狐丸珍しいね。」
「よく言われます。」
そう言って男が小狐丸の方を見やれば、小狐丸は男を睨んだ後ぷいと顔を逸らした。
女子高生はそれを咎めるが、さらにそれを山姥切国広が首を振って否定する。
怒ってやる必要はないということだ。
山姥切国広は、男の伸びきっている鼻の下を見てため息を吐いた。
うちの主はどうしようもない。
「あの、そちらには鶴丸国永がいるんですね。うちにはいないので、なんだか新鮮で。」
そう言ってふふ、と笑う女子高生はやはりかわいらしい。
男は鶴丸国永のことを好いているが、それとこれとは別だ。
かわいいものはかわいい。
「そうなのか。鶴丸、おいで。」
男がそう言って鶴丸国永を手招きすれば、鶴丸国永は一期一振との会話を中断し男の横へと並んだ。
鶴丸国永を間近で見た女子高生は、その目を見開き、それからゆるりと目尻を下げて、ほうと感嘆のため息を漏らした。
「本当にきれい…」
思わずもれた賞賛に、鶴丸国永だけでなく男も嬉しくなる。
自分の刀を褒められて嬉しくないものなどいないのだ。
「早く君の本丸にもくるといいな。」
「はい、あの、ありがとうございました。」
「いえいえ。」
女子高生はまたも礼を述べると、もう一度鶴丸国永に目をやった。
男が初めて鶴丸国永を見たときも、このような反応をしたものだ。
「大将、そろそろ時間だ。」
不意に薬研藤四郎から声がかかり、男は腕時計を見やる。
なるほど、かなりの時間を雑談に費やしていたようだ。
「すまない、かなり時間をとらせたな。俺はそろそろ行くよ。」
「はい、こちらこそすいません。では、また機会があれば。」
こうして、演練一戦目は幕を閉じた。