第8章 崩壊
「……………じゃあ、おれは、どうすればいいんだよ…」
沈黙の後、男が吐き出したのはどうしようもない弱音だった。
「どうすれば、よかった…?」
男の言葉が、薬研藤四郎のことを示唆していることは直ぐに分かった。
しかし何と答えればいいか分からない。
鶴丸国永はできるだけ刺激しないようにと、ありきたりな、けれどちゃんと本心から思っていることを告げる。
「君のせいじゃないさ。…あれは、誰のせいでもない。」
鶴丸国永の言葉に、男が首を振る。
「ちがう、俺なんだ。俺の、せいだ。」
男は、呆然と一点を見つめて言う。
その瞳は光を映さず、底が見えないような黒だった。
「薬研が、なにか悩んでたのに気づいてたのに。」
そうだ、確かに薬研藤四郎は悩んでいた。
「気づいてて、俺はほっといた。」
あの日の夜も、ふたりでいる時も、悩みの種はすぐそばに撒かれていた。
「明日があるから、次が、あるからって。」
そう言ってから、男は震える声で自嘲する。
次なんて、あるはずないのに。
明日がくるなんて、保証はないのに。
身体からは力が抜け、畳の上にぺたりと座り込む。
じんわりと歪む視界。
熱くなる眼の奥。
男は、震える唇で言葉を紡ぐ。