第8章 崩壊
ぽつ、ぽつ、と屋根の先から伝う雫をぼうと見つめていれば、五虎退の足元を歩いていた一匹の虎が頭でふくらはぎの下あたりを押す。
小さくガウ、と鳴いて催促される。
「あ、ごめんね」
それに五虎退は自分の目的を思い出して、虎を抱えて歩き始めた。
五虎退についている五匹の虎が迷子になることはよくあることだ。
一匹は必ず五虎退から離れないのだが、他の四匹はどうもマイペースらしい。
以前、目を離したすきに障子を破いているのを見つけたときは泣きながら何度頭を下げたことか。
ここ最近は大人しかったのに、今日の朝餉を食べ終えたあたりから四匹の虎を見かけなくなった。
先程から心当たりは全て探しているのに、一匹も見つかっていない。
いつもなら兄弟や他の短刀、その場に居たものが一緒に探してくれるのだが、今日はそんな訳にもいくまい。
薬研藤四郎が折れてから、ここのものたちは日々ばらばらになりつつある。