第8章 崩壊
薬研藤四郎が折れてから数日が過ぎたが、この本丸ではめっきり笑い声が聞こえなくなってしまった。
薬研藤四郎を失ったという悲しみがあるのは勿論だが、それだけではないこともこの二口は分かっている。
主である男が、刀剣男士と距離を取るようになってしまったのだ。
あからさまに避けられているわけではない。
それでも、気づいてしまう程度には線引きをされている。
以前まで賑わっていた食事の時間はしんと静まり、男は自室から滅多に出てこなくなった。
会話をしようと言葉を投げかければ返してはくれるのだが、どこか壁を感じる。
向けられる笑みは作られたそれで、その顔を見たくなくて誰も男とちゃんと目を合わせようとすることはなくなった。
勝手に出入りをしてもしょうがないなあと笑って許してくれた男の自室は、今では初期刀である山姥切国広のみが出入りする。
その山姥切国広も、男との会話はほとんどなく事務連絡ばかりだとこの間言っていた。
「…本音を言うと、僕は寂しいんだ。もちろん、薬研が折れてしまったことも悲しいけれど、主が僕らを見てくれないというのはそれすらも上回ってしまう。白状なのかもしれない。」
歌仙兼定は、己の心中を吐露した。
なんとなく、にっかり青江になら聞かれてもいいと思ったからだ。