第7章 燃えて灰になる
「もう、いいんだ、主」
その声は囁きのようであり、震えていた。
「やめてくれ、このままではきみが倒れてしまう」
鶴丸国永は目頭が熱くなるのを感じて、ぐっと耐える。
こういうとき、己の主はよく唇を噛んでいた。
真似してみれば、なるほど、確かに涙はこぼれない。
「でも、やげんが…」
男は返す。
つたない言葉で、子供のような言葉で。
「あるじ、もう、無理なんだ。だめなんだ。薬研は、治らない。」
口を開けば、同時に涙がこぼれた。
鶴丸国永はこの本丸に顕現して二年以上経つが、泣いたのは初めてだった。
そんな鶴丸国永の声を聞きながら、男が呟く。
「なおらない…」
おうむ返しのようなそれに、鶴丸国永は頷いた。
「そうか、もう、なおらないのか…」
小さな声だった。
なんの起伏もない声だった。
鶴丸国永は背後から抱きしめたことを後悔する。
これでは、男の顔が見れない。
「やげんは、おれたんだな」
次に発した言葉の、言葉尻が情けないほど震えていた。
男は鶴丸国永の腕の中でぐるりと反転すると、顔を彼の胸元に押し付けて泣いた。
声を殺して、息をつめて、静かに泣いた。