第7章 燃えて灰になる
ふう、と息を吐く音が聞こえて、それから男は鶴丸国永と山姥切国広、大倶利伽羅に石切丸、へし切長谷部と意識のあるものに指示を出す。
「鶴丸、第二部隊に遠征帰還令を出してくれ。国広、第三部隊に遠征は中止と伝言。倶利伽羅、お粥を四人前作って欲しい。長谷部、薬研は持ってるか?」
的確な指示であった。
この期に及んでなお、男は冷静なように見えた。
ここにいる誰一人事態が飲み込めていない中で、男はいつも通りだ。
いつも通りだと、そう思っていた。
「長谷部、薬研を」
男の催促に、未だ現状についていけないへし切長谷部は慌てて、しかし慎重に、懐から布で包んだ薬研藤四郎の折れてしまった短刀を取り出す。
男はそれを受け取ると、小さくよし、と呟いてそのかけら一つ一つをつなぎ合わせる様にして置いた。
そこで、初めてその行動を見ていた五口は気づく。
ちがう、男はいつも通りなどではない。
誰よりも、現実を呑み込めていない。
彼は、男は、主は、薬研藤四郎が治ると。
折れてなどないと。
信じ込んでいるだけだ。
あまりに辛い現実を受け入れられずに、薬研藤四郎は治るものだと自分で刷り込んだのだ。
折れてしまった刀は治らない。
元には戻らない。
一度だけなら、お守りを所持している刀剣ならばその不可能を可能にするが、薬研藤四郎はちがう。
堕ちたのだ。
あちら側にいってしまったのだ。
お守りが効くはずがない。