第7章 燃えて灰になる
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「はせべ…?」
そこに立っているへし切長谷部は、今まで見たことがないような情けない顔をしていた。
瞬きした次の瞬間には泣いてしまうんじゃないだろうか、と思わずにはいられない。
「あるじ…」
発した声は驚くほど弱々しく、男の不安を煽る。
ぽた、と畳の上に音を立てて落ちる血雫に、男は改めてへし切長谷部の格好を見た。
いつも付けているストラはなく、カソックは所々破れ、その隙間からは血肉が見える。
切れたばかりなのか、その傷口からは未だに血が流れており、中でもひどいのが左肩だった。
持ち上がらないのだろう、ぶらりと下がった左手からは血が滴る。
男は慌てて、へし切長谷部に駆け寄った。
へし切長谷部は中傷を負っていた。
「長谷部!お前、傷…!」
男が口を開けば、へし切長谷部はさらに顔を歪める。
傷が痛むのだろうか。
それとも重傷と中傷を出してしまったことを悔やんでいるのだろうか。
敵大将まで進めなかったことを嘆いているのだろうか。
へし切長谷部は主である男のためならば、自分の犠牲など顧みないような刀だから、今回の出陣で思うことがあるのかもしれない。
男が再び口を開こうとして、それはへし切長谷部に遮られた。