第6章 薬研藤四郎という刀
「気にすんな、旦那も本気で言っちゃいないさ」
気まずい雰囲気を壊すように、薬研藤四郎が明るい声で言う。
男はそれにへらりと情けない笑みを返すのがやっとだった。
「三日月の旦那も、あまりからかってやるな。」
「すまぬ」
薬研藤四郎が三日月宗近を咎めれば、三日月宗近はしゅんとして謝る。
男はそんな三日月宗近を怒る気にはなれなくて、このやり場のない感情をため息にして吐いた。
「主、すまぬ」
男の様子を見てもう一度謝る三日月宗近に、男はもういいよと柔らかく笑んでやる。
もう起こってしまったことはどうしようもないし、三日月宗近が男を傷つけたいわけがないことなど分かっている。
事故として片付けるには些か心が疲れたが、こうして謝っている三日月宗近を許さないなんてことはしない。
三日月宗近は落ち込んだまま寝る前の挨拶だけして、とぼとぼと自室へ戻っていった。