第6章 薬研藤四郎という刀
そんな男に追い討ちをかけるように、鶴丸国永は言葉を吐く。
「さんざん俺のことが好きだの抱かれたいだの言った上に、口吸いまでしてきたくせに、同じ口で他の男に同じことをするのか」
「は、なに、いって…」
「忘れたとか言っていたが、なかったことにしたかっただけじゃないのか?きみ、本当は俺のことなんてそんなに好きじゃないんだろ」
まるで、頭を鈍器で殴られたようだ。
足は地面に縫い付けられているかのように動かない。
床に触れている足の裏から、体温がすべて奪われていくような感覚。
男には、鶴丸国永が何を言っているのか理解できなかった。
好きと告白したのは男が覚えている限り、一度だけ。
桜が綺麗な夜の、あの日だけだ。
ましてや抱かれたいなど、キスなど、そんなことしたことすらない。
いや、ちがう。
男がそう思っているだけで、覚えていないだけで、確かにその事実は存在していた。
夏の夜、ふたりで飲んだ日のこと。
大倶利伽羅が作ってくれた酒の肴。
途中でなくなった記憶と、翌日の鶴丸国永の態度。
全てが合致した。