第6章 薬研藤四郎という刀
「っ?!」
驚きのあまり目を見開くことしか出来ない男に、襖を開けたものーー鶴丸国永と後ろに薬研藤四郎も控えている。も、男同様驚きのあまり動けずにいるようだった。
どのくらい、そうしたままだっただろう。
一番初めに口を開いたのは、薬研藤四郎であった。
「……お邪魔だったか?」
しん、と静寂の世界に落とされた声に、男はようやっと今がどういう状況なのか理解する。
男はいつまでも唇をくっつけて離さない三日月宗近から顔を逸らし、慌てて上から飛び退いた。
「ちがう!これはたまたま転けて…!」
男は必死に弁解する。
全ては鶴丸国永に誤解されないため。
しかし弁明すればする程言い訳じみてくるのは何故なのだろうか。
慌てふためく男に、鶴丸国永の瞳が射抜かれる。
その金色の瞳は、ゾッとするほど冷たく、男は言葉を失った。
昼間見た怒りとも、一期一振が重傷を負って帰ってきたときとも違う。
男はその瞳を見た途端、一気に体温が下がるのを感じた。
「きみは、誰にでもそういうことをするんだな」
ぐさり、と鋭利な言葉が男の胸のうちを抉る。
男はショックで言葉を失った。
違うのに、否定しなきゃと思うのに、口の中は渇き舌は鉛のように重い。
言葉を紡ぐことなど、できなかった。