第6章 薬研藤四郎という刀
「じゃあ、寝るまで話し相手になってくれ。三日月は鶴丸と昔からの知り合いなんだろう?良かったら、昔の鶴を教えてほしいな」
「主はほんに鶴のことが好きだなあ。構わんよ。昔の鶴はなーーーー」
三日月宗近の口から語られる鶴丸国永は、今まで聞いたどの鶴丸国永とも違った。
付喪神である彼らは、人間の強い信念や主に大切に扱われることで自我を形成するらしい。
三日月宗近や鶴丸国永を始めとするここにいる多くの刀は、昔から付喪神としてあったものがほとんどだと言う。
そんな二口は、彼らの生みの親である師弟関係も相まって昔からの知り合いだ。
三日月宗近の方が幾らか早く打たれたから、鶴丸国永のことは彼が生まれた時から知っている。
始めは恥ずかしがり屋だったこと。
生みの親である五条の側をいつもついて回っていたこと。
今ほど口が達者でなかったこと。
よく木の上にいたこと。
三日月宗近のことを三日月様と呼んでいたこと。
今と変わらずいたずら好きだったこと。
三日月宗近の話は魅力的で、男はますます鶴丸国永に惹かれていく。
「鶴には内緒だぞ。昔話をしたと知られたら、俺が怒られてしまう。」
そう言って小さく笑う三日月宗近に、男は頷いた。
三日月宗近の声は穏やかで心地よく、男を眠りに誘う。
重たくなってきた瞼を、何度か閉じて開いてと動かす。
すると、その様子に気付いた三日月宗近が、睡眠を促すように頭を撫でた。