第6章 薬研藤四郎という刀
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「で、何でお前がここにいるんだ」
夜間、普段ならいるはずのない人物が自室に居座っているのを見つけて、男は問うた。
「無粋なことを聞く。夜に男が寝床に行くなど、することは一つだ。主や、夜這いに来たぞ」
「………」
「冗談だ」
三日月の冗談は分かりにくい、と男は思う。
先程まで寝酒を嗜み、良い具合に気分がよくなって眠気もやって来たから、寝ようと自室へ戻ってきたらこれだ。
おかげで酔いは醒めてしまったし、三日月宗近が男の部屋にいるということは直ぐに寝させてはもらえないのだろう。
男はため息を吐きながら、三日月宗近の前に腰を下ろした。
「主がよく眠れるようにな、石切丸に魔除けの香を用意してもらった。また魘されては休むに休めんだろう?」
三日月宗近は何でもないことのように言って、懐から香を取り出した。
石切丸は御神刀であるから、その効果は絶大なのだろう。
男はまさかそんなに心配してくれているだなんて思っていなかったから、一瞬呆気に取られる。
「ありがとう…」
「よきかなよきかな。今日はゆっくり眠るといい。もし眠れないのなら、どれ、俺が一つ添い寝でもしてやろう。」
これは冗談ではないのだろう。
三日月宗近は男を見てゆうるりと微笑んだ。
そんな三日月宗近を無下になんてできなくて、男は正面から隣へと移動する。