第6章 薬研藤四郎という刀
まるで嵐のように一瞬にして去っていった二振りに、男の思考は薬研藤四郎から完全に塗り替えられていた。
頭の中を埋めるのは、先程までの鶴丸国永である。
一期一振が来るではあんなに男の方を見ていてくれたというのに、彼が来た途端鶴丸国永はそちらばかりを見ていた。
そもそも、鶴丸国永が内番をサボるなど、一期一振と組んだ時だけだ。
ああ見えて彼は意外にきっちりとしているし、基本的に男が本気で困るようなことはしない。
それがどうだ、一期一振が関われば話は変わる。
男はそのことが面白くなかった。
まるで二人の仲を見せつけられているようで、切なくなる。
きゅうと痛む胸を抑えて、息を吐く。
一期一振がすごく嫌なやつだったなら、こんな気持ちになることはなかっただろう。
惨めで苦しくて、八つ当たりしてしまいそうな自分を嫌いになることもなかった。
男が自己嫌悪におちいっていれば、ぽんと頭に手が置かれて意識が引き戻される。三日月宗近だ。
「主そんな顔をせんでくれ」
三日月宗近が困ったように言うから、男にもそれが移ってしまう。
二人して困り顔でいるなど、側から見れば不思議な光景だろう。
それでも確かに、この瞬間男は三日月宗近に救われている。