第6章 薬研藤四郎という刀
鶴丸国永はそう言って苦笑いを浮かべた。
説明してくれるのは有り難かったが、男はそれどころではない。
いやだってととさま…!ととさまだって…!
ととさま萌えるくっそかわいい天使つるほんと天使。
まさかの父様呼びに、心の中は大混乱である。
しかし顔に出すわけにもいかないので、男は平然を装うため唇を噛みしめる。
こうでもしてないと多分口に出してしまう。あと絶対にやける。
男が平然を装おうと奮闘していれば、縁側の方からひょこりと一期一振が現れた。
「主殿、鶴丸殿を見ませ…つるまるどの!」
一期一振はどうやら鶴丸国永を探していたらしく、部屋にいるのを見つけると穏やかな表情を一変させ鶴丸国永のすぐそばに近寄った。
「厠に行ってくると仰られてから暫く戻ってこないと思ったら!」
一期一振の言葉から察するに、彼はご立腹らしい。
会話の端から、暗に鶴丸国永がサボッたと分かる。
男は鶴丸国永の方を見て、休憩じゃなかったのかよと視線で訴えかけた。
鶴丸国永は男の視線を流し、やべっと小さく呟く。
「まあまあ、そう怒るなよ一期。ちょっと迷っただけだろ?」
どうどうと一期一振の気を鎮めるようにしながら、鶴丸国永は確実に後ろに下がっていく。
下がった先は、一期一振に塞がれている襖とは別の障子だ。
手に障子がかかると、鶴丸国永は一目散に駆けた。
「あっ、こらっ!鶴丸殿!」
それを咎めながらも、一期一振は鶴丸国永を追って部屋を出る。
出る間際に、お騒がせしてしまって申し訳ありません、と一言添えるあたりが一期一振らしい。