第6章 薬研藤四郎という刀
「よさぬか五条の」
そんな男の様子を見兼ねて、先程から黙っていた三日月宗近が止めに入った。
りん、とした声は大きくはないのによく通る。
男は三日月宗近の温度のない声にぞっとした。
「主のその傷は、魘されているときに自分で作ったものだ。お主が当たったところで仕方なかろう。」
鶴丸国永は、三日月宗近の言葉を聞いて動きを止めた。
それから男は確認するように視線を向けられたので、肯定の意味を込めて首を縦にふる。
三日月宗近の温度のなくなった声が恐ろしくて、もう男は消えてなくなってしまいたかった。
美人は怒ると怖い。
鶴丸国永はため息を吐いてから、男の首筋に触れていた右手と肩を掴んでいた左手を離した。
男はそれを少しばかり名残惜しく感じながら、ようやくいつもの雰囲気に戻ったことに胸をなで下ろす。
「その、すまなかった。三日月も、分かったからその呼び方はやめてくれ」
「呼び方?」
「さっき三日月が五条のと言っていただろう」
「ああ、そっか鶴を作ってくれた人と三条宗近は師弟関係なんだったな」
「…父様のそれが俺の中にも少しはあるみたいでな。三条のものにああ呼ばれると弱る。」