第6章 薬研藤四郎という刀
男が何とも言えない快感に身を委ねていると、鶴丸国永は低い声で問うた。
「なんだこれは」
男はびくりと体を揺らす。
その声は確かに怒気を含んでいた。
「え、っと、」
「誰かにやられたのか?」
男がいきなりのことに言い淀んでいれば、掴まれた肩に力を込められる。
被せるように発せられた言葉に、普段の男なら軽口を叩いていただろうが今はそんな雰囲気ではない。
「ちが…」
「ちがう?なら何でこんなところに傷がある」
ただならぬ雰囲気の鶴丸国永に、男は根を上げそうになる。
こんなに怒った鶴丸国永を見るのは二度目だ。
一度目は、一期一振が重傷で帰ってきたとき。
中傷を負っていたにも関わらず進軍という選択をした男に、鶴丸国永はキレた。
その時は自分に非があると分かっていたからそれ程恐怖はなかったが、二度目である今はちがう。
そもそも恐怖心がそれほど無かった一度目でさえ、男はその剣幕にちびりそうになったのだ。
意味が分からないままキレられている二度目は、ちびるどころの騒ぎじゃない。
怒られて泣くなんてかっこ悪くてしないが、それでも泣きそうになる。